JR革マル派の集大成本が発刊

その本のタイトルの「暴君」とは、国鉄動力車労働組合(動労)委員長、JR東労組委員長などを歴任し、平成22年に鬼籍に入られた松崎明さんのことです。この同じ年には中核派の最高幹部であった北小路敏さんも逝去していますので、何となく因縁を感じます。

さて、私もJR内の革マル派に関しての本や雑誌をずいぶん読みましたが、常に問題意識の根底になったのは、「松崎明さんは本当に転向したのか?」であり、「革マル派中央とJR革マル派との関係は?」でした。このことは、関心のある多くの皆さんも同じだったと思います。

そして、本書では完全ではありませんが、そのことに結論を出しています。結論は「松崎明の転向(コペ転)は偽装であった」と「中央は黒田寛一が、JRは松崎明が指導し、クロカンが議長を辞めたあとは松崎が事実上のトップになった」と明言しています。多分、事実でしょう。

それにより、これらもまた長い間の疑問だった、JR九州労大量脱退事件や坂入充さん拉致監禁事件も合点がいきました。また、著者である牧久さんは日経新聞副社長まで務められた方ですが、国鉄職員として労働運動をウォッチしてきた宗像明さんは松崎さんの遺訓のようなものを紹介しています。

私はこの本を読んでいて、著者は宗形さんの言葉を借りて、松崎さんの後輩への指導が以下の8項目に集約されていることを確信しているのではないかと思いました。
①会社に「労政変更」だけは絶対にさせてはならない。
②国鉄改革時の「松崎・動労のコペ転を範とせよ」(革マル派組織の維持・拡大こそ第一義)。
③今は暗黒時代。嵐のときに登山するのは馬鹿者である(国労崩壊がよい例)。
④革命の志を捨てず、ひたすら耐え忍んで、時節の到来を待て。
⑤たとえ「御用組合」と批判されようと、党中央への資金源をして機能すれば、今はそれが正義である
⑥思想教育を怠るな。現場長の「かんり組合」に広く深く根を下ろせ。
⑦革命への“志”さえ堅持すれば、暗黒・嵐の時代に会社に従うのは恥ではない。
⑧上記の事柄を銘記し、「最大多数組合の座」を死守せよ。

しかし、終章「三万四五〇〇人の大脱走」に書かれているように、現在のJR東労組はあっという間に大崩落してしまい、組織率は3割を切り、大打撃を受けています。ただ、東京地本などは運転職場を中心にしぶとく組織を維持していて、革マル派の影響が強いと思われます。

それに関して、大量脱退後のJR東労組は大きく4つほどのグループになっているようですが、最大組織になった無所属以外はもしかしたら、「われこそが松っさんの意思を正当に継ぐものだ!」と主張しているのではないでしょうか。特に、東京、八王子、水戸の3地本の動きが注目されます。

また、第六章「革マル派捜査『空白の十年間』の謎」も、あらためて「ああ、やっぱりそうだったんだな」と深く納得してしまいました。わが国の警察インテリジェンス機関は優秀だとは思いますが、トップが取り込まれて(あるいは脅されて)しまうと、取り返しの付かないことになってしまいます。

これで思い出したのは、公安関係者と何回か話したとき、「革マルだけはまったく掴めない」「この部屋の中にもスパイが潜り込んでいるかもしれない」と言っていたことです。警視庁では公安部公安第二課が担当していますが、いちばん少ないときはたった数名で視察していたようです。

さらに、第九章内の「枝野幸男と革マル派」もとても興味深く読みました。民主党政権時代に官房長官として答弁した彼ですが、肝心なところになると、「知りません」「記憶にありません」を連発しています。他人には厳しいが、自分には甘いという自称リベラルの典型でしょう。

その枝野幸男さんですが、「浦和電車区事件」で有罪が確定して懲戒解雇になった革マル派の東労組大宮地本役員と相互協力の覚書を交わし、約800万円もの献金を受けていますし、事件に関しての報告会などにも積極的に参加しています。「まっとうな政治」とは遥かに遠い言動ですね。

ですから、ご自分の選挙区でもあるJR東労組大宮地本で革マル派が強い影響力を持っていたことを知らなかったはずはありません。もし、本当に知らなかったならば、今度は逆に政治家として失格です。今からでも遅くないですから、800万円は返されたほうがよいと思います。

それにしても、世界最大級の旅客鉄道会社の労組が一時は人事権にまで大きな影響力を持ち、その組合を領導していたのは日本革命的共産主義者同盟革命的マルクス主義派であった事実は驚愕的と言ってもけっして大袈裟ではないでしょう。その会社も「お金儲けが第一!」になってしまいました。

なお、革マル派の活動資金のことですが、さすがにJR総連や東労組のお金を直接、渡していたことはないでしょう。でも、労組内革マル派構成員はボーナス時の3割カンパ(夏冬のボーナス合計が100万円だったら30万円)が義務付けられていて、これだけでもかなりの金額になります。

それにプラスして、労組内で革マル派の活動家を育てるときには、組合費の中から飲み食いも含めて組織活動費として使うことが可能でしょう。こうして、かつての革マル派組合役員が辞めていっても、新しく若い組合員が革マル派の党員、同盟員として育っていきます。

けれども、今回の大分裂で分母の数が大幅に減ってしまったので、それも先細りしていくと思います。会社もいろいろやっているようですが、今のところ、最大集団になった無所属組合員を労使協調的な組合に導いていく様子はありません。いずれにしても、今後もJR東の労使の動きから目が離せません。

ここで打ち止めにすればよいのですが、革マル派の特徴についてちょっと触れておきます。ほとんどが上述の松崎指導項目に尽きるのですが、新左翼(警察用語:極左暴力集団」)は押しなべて「反帝国主義、反スターリン主義」を掲げていますが、敵対する中核派などは圧倒的に反帝に体重をかけています。

一方、革マル派は反スタに重点を置くことが特徴です。私は思うのですが、若くして日本共産党に入党し、ハンガリー動乱では労働者国家がその労働者を武力で弾圧する光景を見て、さらに若き黒田寛一氏に出会って、反スタが何かを習得した青年・松崎明は動労型戦闘的労働運動に挺身しました。

しかしながら、その卓越した指導力ゆえに経営者までもがひれ伏す文字どおり、内部でも自分に対する一切の批判を許さない「暴君」になってしまったような気がします。反スターリン主義に魅せられていた本人がスターリンになってしまったのかもしれません。